2013年11月9日土曜日

レット症候群翻訳メモ - 音楽療法の重要性


トニー・ウィグラム教授



私は、レット症候群の少女や女性との音楽療法に13年以上従事してきました。この期間の多くを、音楽療法と振動音響療法の両方を使ってレット症候群の少女や女性の治療の必要性の評価を行うクリニックで過ごしました。

私が出会ったほぼ全ての対象者で、音楽療法に対する非常に前向きな反応が見られました。どのような領域で著しい効果が得られたかという事について、以下で説明します。

注意力とやる気

音楽は、非常に強力かつやる気を起こさせる刺激になります。レット症候群の子供と大人は、体が非常に不自由であるにも関わらず、多くが積極的に手や声を使って音楽に反応します。彼らが長期間に及ぶ音楽活動に集中し取り組むことができる機会は多くあり、注意力や集中力を発達させる手段になっています。

粗大運動能力(*1)と微細運動能力(*2)

多くのレット症候群の子供や大人に重度の障害が見られます。音楽療法の経験では、手の常動運動の減少と能動的(訳注;自分の意思で動かすという意味)な手の動きの上達が見られました。これは、彼らのやる気と密接な関係があります。楽器の演奏や、打楽器を鳴らすためにスティックやバチを持ちたいという欲求は、例え単純で即興レベルの演奏であっても強いやる気を起こさせるのです。また、演奏に対する自発的な参加によってバランス感覚と姿勢が良くなりました。

訳注*1 粗大運動能力;Gross Motor Skills, 足を交互に使って階段をのぼる能力、まっすぐに歩く能力など、全体を使った動きで確実に成長する能力のこと。
訳注*2 微細運動能力;Fine Motor Skills, スプーンやフォークを正しく使って食事をとる能力、はさみを使って紙を着る能力など、体の小さな動きのこと。子供にとって粗大運動能力よりも習得が難しいが、大切な能力。

言葉を使わない対話  コミュニケーション能力

経験豊な音楽療法士は、演奏を通じて対話をする場をつくります。音楽は言語と同じ働きをすることができ、楽音(*3)を通して声の抑揚(*4)と多彩な表現能力を上達させることは、非常に限られた対話の実現性しか持たない子供にとって大切な事です。身振りや目と目を合わせる行為、そして積極的に楽器を使う事による音量、音色や周波数などの言葉を使わない対話は、レット症候群の子供や大人にとって表現の手段となるのです。

訳注*3 音楽の素材になる音。振動が一定の周期を持ち、高さを明確に判断することができる音のこと
訳注*4 高い、低いなど声のイントネーションの意味

感情のはけ口

音楽は、感情を表現する場をつくります。レット症候群の多くは落ち込んで悲しげになり、イライラし、不安で極度に緊張した状態になる事があります。演奏や発声または大きな楽器で鳴らす単純な音は、このような問題を抱える人々が自身の感情を表現することができる、意味のある素晴しい手段となるのです。経験豊な音楽療法士が組み立てる枠組みによって、このような障害を抱える人が自身の不安や恐怖、幸福や喜びを分かち合うことができるでしょう。

リラクゼーション・安息

レット症候群の子供や大人は、緊張して不安を感じることが非常に多くあります。彼らには過呼吸や手の常動運動があり、また普段は意識がはっきりした状態にあります。静かな、落ち着かせる方法で使われる音楽には人をリラックスさせる効果があり、周囲に反応する能力を促します。

まとめ

音楽療法は、レット症候群の子供と大人の生理的、精神的、そして感情的側面に効果的です。文献にある音楽療法に関する全ての参照が、このような深刻な障害を抱える人々に対する有効性を示しています。臨床的にも音楽療法は総括的アプローチ(訳注;幅広く全体を対象にした取り組みのこと)であると評価されており、また、このような障害を持つ子供と大人に達成と可能性を引き出すことができる、非常に優れた方法になるという事が証明されています。全てのレット症候群の子供の特別教育支援(訳注;The Statement of Special Educational NeedsまたはSEN、英国政府が定める特別教育支援)に含まれるべきであり、治療の一つとして可能な限り長く続けられるべきです。







資料ソース
The Importance of Music Therapy
Professor Tony Wigram
RETT UK INFORMATION SHEET




翻訳、編集;片目のにゃみ姉