2013年3月14日木曜日

レット症候群翻訳メモ - 睡眠について




夜の就寝で良い睡眠をとる事が、学習の向上、気分の改善、良い健康状態、また、子供と家族全員の生活の質の向上をもたらします。この記事は睡眠障害の専門家でBlue Bird Circle Rett Centerの医長であるDaniel Glaze医師が国際レット症候群団体(IRSF)のために書いたもので、睡眠による効果、不安定な睡眠に伴うリスク、レット症候群(以下レット)でよく見られる睡眠問題の種類と、規則正しい睡眠に戻るための方法を紹介しています。そして、これらは多くの方が持つ疑問に対する答えでもあります。

1. なぜ寝るのですか?

食事、運動、そして睡眠は子供や若者が健康な生活を送るための柱であり、家族の福利を増進させます。

2. 子供や若者における睡眠の問題はよくありますか?

一般的に成長過程で20から25%の子供たちが なんらかの睡眠問題を経験します。

神経発達障害をもつ子供たちの40から80%が睡眠問題を持つと推定されています。

3. レットの幼児や若者における睡眠問題を抱えるリスクは高いですか?

レットのデータベースと問診票を用いた大規模な研究がオーストラリアで行われ、レット患者の80%以上に睡眠問題が見つかりました。年齢と共に日中の睡眠が減り、同時に夜間笑う行動が増えていました。(遺伝子の)欠失が大きいほど睡眠の問題も深刻で、また、p.R294X もしくは p.R306C遺伝子の突然変異ではより多く見られます。数は減りますが、p.R270X, p.R255X, p.T158M遺伝子突然変異でも同じく睡眠の問題が見られます。

4.  睡眠の問題を訴える親は多いのですか?

子供における睡眠の問題 は、病気、食事、行動、身体的異常に次いで5番目に多い心配事であり、また睡眠の後には言葉、動きの発達、トイレトレーニング、歯の生え変わりが続きます。

睡眠の問題は、レット症候群では「普通のこと」と感じ、親はかかりつけ医師に相談しないかもしれません。また、医師も睡眠の問題について質問する時間を設けないかもしれません。これらの思い込みや習慣を変えるべきでしょう。

5. 睡眠の問題は続きますか?

睡眠の問題を放置すれば慢性化するでしょう。精神発達の遅れ、胃腸障害などの慢性疾患、母親のうつ病や、家族のストレスなど、いくつかの要因が関係します。レット症候群における睡眠問題の重症度と永続性において、これらの一部またはすべてが起因である可能性があります。

6. 子供の体の機能において睡眠が不可欠なのはなぜですか?

実は、なぜ私たちが寝るのかわかっていません。よく知られる学説では、脳細胞と回路の回復を促すと示唆しています。学習の一端を担っている可能性があります。

しかし、睡眠不足と不適切な睡眠の結果はわかっています。短気などの不機嫌、不注意や学習問題を含む認知機能障害、衝動的で多動などの問題行動などを引き起こします。

7. 睡眠不足による影響とは?

  • 睡眠の問題は以下を悪化させます;
  • 気分や衝動をコントロールする能力
  • 認知する能力
  • 不注意によるケガ
  • 循環器(高血圧など)、免疫(感染に対する抵抗)や内分泌(ホルモン)機能


8.  睡眠の問題は家族にも影響を与えますか?

睡眠の問題をもつ子供がいる家族では、家族間のストレスや夫婦間の不仲、家族の睡眠不足、日中の疲労や失業の増加が見られ、また、良い子育ての減少や、子供に対する身体的暴力の危険性があります。

9.  小児の睡眠問題を治療することは可能ですか?

睡眠問題は治療が可能です。治療は、子供が睡眠の問題を抱えている事に気づくところから始まります。しかしながら、地域で活動する600人の医師の20%は睡眠問題の精査を行わず、25%はいびきの精査をせず、また若者に対して睡眠習慣に関する質問をしたのは40%以下でした。主治医のために開発された有効な問診票はBEARSといいます。これは、発達上適切な5つの問診で精査し、以下で形成されます;
  •        B = 就寝時の問題
  •        E = 日中の過度な眠気
  •        A = 夜の目覚め
  •        R = 睡眠の規則と時間
  •        S = いびき

この問診で、短時間かつ適格な方法で子供の睡眠問題を確認できます。「あなたのお子さんに睡眠の問題は見られますか?」と単に聞くよりも、多くの情報が得られます。

10.  レット症候群の子供の睡眠問題の評価はどのように行うのですか?

両親の行動の確認
  •      睡眠問題に対する両親の反応
  •      両親にとっての目標は何か、どのような方法が可能か
  •      両親は、子供の睡眠問題にどのように対処しているか
  •      子供の睡眠問題による、家族の睡眠と日中の生活への影響


睡眠問題の原因となり得る医学的問題の評価
  •      酸の胃食道逆流症(GERD)を含む胃食道の問題の有無
  •      脊椎側湾症はあるか(睡眠時の呼吸不全を引き起こすことがある)
  •      特に夜起こるタイプのてんかんはあるか
  •     不安や行動管理に対する薬、てんかん薬、市販の睡眠補助薬を含む、睡眠に影響を与える可能性のある薬の服用はあるか


睡眠問題の評価
いつもとは違った夜泣きや動き、睡眠中の呼吸の問題など、夜の就寝における寝付きと継続の困難の特徴を明らかにする睡眠記録をつける事から開始します。
まず医師は、子供の睡眠日誌を2週間付けるよう指示します。日誌には、就寝時間、起床時間、目覚めの状態、夜間の状態、寝床の環境などを記録します。これにより、夜間の目覚めや就寝規則、起床時間や昼寝を含む就寝パターンが明らかになります。               
以下の睡眠日誌は、子供が安定した夜の睡眠をとるが寝付くまで1から2時間かかる事を示しています。これらの所見は睡眠段階の遅れをあらわしています。



選ばれた子供達で一夜の睡眠研究を行うことも良いでしょう。睡眠研究は、脳の活動の記録(脳波測定)、通気状態、呼吸の仕方、酸素と二酸化炭素の数値、心拍数、手足の動きの継続した記録を含みます。



睡眠の研究は、技術者と小児睡眠専門医によって、小児睡眠研究所にて録画記録を用いて行われるべきです。研究は、子供の普段の睡眠時間と同じ時間帯で夜通し行われるべきです。親が一名子供に付き添います。この研究は非浸潤的(訳注;刺して血がでるなどの処置を含まない)で痛みはありません。センサーの取り付けで子供に多少の動きの制約を与えることがあります。

11. レット症候群の子供で最も多く見られる睡眠問題は何ですか?

·      不眠症;寝付きと睡眠の維持の困難。早朝に目が覚める。
·      就寝と起床の規則の問題;寝付きの遅れ。早朝の目覚め。不規則化。

12. 急性ストレス障害(ASD)の子供の睡眠問題はどのように管理しますか?

第一段階
  •      投薬による問題への対処
  •      日中の問題行動の管理
  •      必要に応じた、投薬内容の再検討と変更
  •      両親への情報提供及び、適格な目標設定の提示


第二段階
  •      その他の睡眠問題への対処
  •      睡眠衛生
  •      行動科学的なアプローチ
  •      投薬


13. 睡眠問題の治療に用いられる行動科学的治療とは何ですか?

  •       消耗(子供に思う存分泣かせる)。長期で段階を経た無反応、強化されない行動を、徐々に消失させる。親による要因を取り除く(スーパーナニー番組の方式。徐々に子供から距離を置く。)
  •       望ましくない行動を予測する日程表を活用した認知
  •       親に対して行う、睡眠と正しい予測についての教育
  •       リラクゼーション。マッサージ療法


14.  子供の睡眠問題の治療に用いられる薬は何ですか?

  •      子供の睡眠問題で使用できる承認された薬はありません
  •      薬の動態、安全性、効果に対する研究はわずか、もしくは全く行われていません
  •      しかしながら、睡眠の問題をもつ子供に対する投薬は頻繁に行われています

睡眠問題を頻繁に経験する子供に対する治療として投薬が行われます。
  •      アルファ作動薬;クロニジン(0.025~0.3mg
  •      睡眠薬;ゾルピデム5~10mg, CR 6.25~11.5mg
  •      抗うつ薬;トラザドン(25~50mg
  •      メラトニン(用量範囲は広いが、通常3~5mg、長時間作用では CR 3mg)


15. 睡眠の問題は防げますか?

はい。親への情報提供によって問題を予防することは可能です。
通常の成長期にある子供が必要とする睡眠は以下の通りに報告されています;
  •       0~2ヶ月齢;16~20時間。朝夜の規則はない
  •      2~12ヶ月齢;9~12時間。4~1回の昼寝(2~5時間)
  •      1~3歳;1日12~13時間。2~1回の昼寝
  •   3~5歳;1日11~12時間。1~0回の昼寝
  •      6~12歳;10~12時間。昼寝なし
  •      12~18歳;9~9.5時間。昼寝なし


夜間の目覚めで注意するべき時とは?
  •   頻回である。3~4
  •      持続時間。20分
  •      親の介入が必要
  •      いびき、寝相、ケガをする、もしくは変わった(類型的)行動が関連している
  •      日中の眠気


良い睡眠を与えるために、親ができる事とは?

睡眠衛生
  •      年齢と成長にふさわしい睡眠規則
  •      毎晩、就寝までにかかる時間を20~30分とする 
  •      起きているが、眠気のある状態でベッドに入れる
  •      就寝時間と昼寝時間の規則を管理する
  •      ベッドに入るのは寝る時のみ。寝室は暗くする(小さな光は良い)。気温は低め(23度くらい)。安全な環境。電子機器は置かない。
  •      就寝前の軽食。少量のスナック
  •      カフェインやアルコールを避ける(市販を含む多くの薬にはアルコールが含まれています)
  •      就寝前に3~4時間の運動を習慣にする
  •      午前中の眩しい明かりは、早い眠気を促します。午後の眩しい明かりは、眠気を遅らせます

最後に

良い睡眠と十分な睡眠は、良い健康と体の機能を促します。
すべての子供とその親や家族は、夜に良い睡眠をとってしかるべきです。

睡眠の問題は、レット症候群ではよく起こります。子供のかかりつけ医師と会う時には、毎回睡眠の評価をするべきです。もし医師が質問してこないのなら、あなたから進んで伝えるべきです。

睡眠の問題を診断し、治療することは可能です。

睡眠の問題は予防が可能であり、例え予防が無理でも改善させる事は可能です。ぜひ、前もって対策を持ってください。


資料ソース
RETT SYNDROME AND SLEEP – FREQUENTLY ASKED QUESTIONS
Dr. DANIEL GLAZE, MEDICAL DIRECTOR, THE BLUE BIRD CIRCLE RETT CENTER (2011)
The International Rett Syndrome Foundation




翻訳、編集;片目のにゃみ姉