2013年10月27日日曜日

レット症候群翻訳メモ - 理学療法

理学療法
Lyn Weekes FCSP 理学療法士(引退)
2007年 Rett UK


理学療法は科学に基づいた健康管理の専門分野で、運動を健康と幸福の中心核ととらえます。理学療法士は、健康増進、予防的アドバイス、治療とリハビリによって運動能力を見極め、また最大限に引き出す事を目指します。


レット症候群であると診断された患者に理学療法を案内する事は最も重要です。赤ちゃんを含むレットの子供全ての関節には完全な運動機能が備わっており、この能力を維持して、変形の発生を予防もしくは遅らせるために全力を尽くさなくてはなりません。脊椎後弯または脊椎側弯、またはその両方による脊椎変形がおこる危険性が非常に高く、脊椎の問題が発生する前にあらかじめ整形外科医の診察を受けておく事が望ましいでしょう。起立や歩行は膝、股関節と背骨を伸ばすので、脊椎変形の発生を遅らせる手助けになります。適切な座席の使用と姿勢の管理を幼少期から行う事が最も重要です。脊椎側弯が実際に起こる前に脊椎の側面の歪みによる凝り(こり)を探し当てる事ができるため、脊椎の可動性の向上、または維持を目指して理学療法に打ち込むべきです。多くの場合、水治療法や乗馬が効果的です。

若年期のレット症候群の中には筋肉の緊張のゆるみが見られる事があり、理学療法士による正しい姿勢のアドバイスによって変形を最小限にすることができます。関節が極めて可動的で柔軟な子供に変形が起こる事を思い描くのは難しいかもしれませんが、アキレス腱の緊張だけが進む一方で他の部分は柔軟なままになる可能性もある事をあらかじめ知って置くべきでしょう。アキレス腱の緊張は子供の起立や歩行を妨げるでしょう。筋肉の緊張が極めてゆるい状態では股関節の前方脱臼の危険性が高くなるため、特に睡眠中は慎重に体位を決める必要があります。

年長者の多くは股関節の片方または両方に、亜脱臼または脱臼の問題を抱えています。脊椎変形は骨盤傾斜をまねき、そのうちに股関節のぐらつきをまねきます。股関節が内転すると脱臼する恐れがあります。筋肉の拘縮(訳注;筋肉の持続的な収縮、関節に原因がなくとも関節が動かなくなる状態の事)を防ぎ、荷重と歩行の能力を維持することが一番重要です。脊椎を観察している時はレントゲン撮影が役に立ちます。

年を取るにつれて起こる筋緊張(筋肉の緊張)の増加は、レット症候群で良く見られます。弛緩(訳注;筋肉をゆるめる状態)と受動運動(訳注;安静と受動運動(訳注;受け身の状態で動かされる運動)は変形した筋肉への取り組みには欠かせず、積極的な運動に極力励まなくてはなりません。先にも述べたように、水治療法が効果的です。荷重と歩行能力を維持するためには、多くの気配りが必要です。体の両側に一人ずつ付き添うなど、歩行の補助には二人必要かもしれません。

年を取るにつれて理学療法の実施が減る事もありますが、逆に年齢を重ねると体重が増加して硬直が進むために、理学療法の必要性は増します。

以下では、理学療法の重要性とその技法について触れます。


理学療法とは何ですか?また、なぜ重要なのですか?

レット症候群には退行性があり、レットの方が若くして亡くなるのはそのためであるという事が広く信じられています。しかし、そうではありません。多発性硬化症や運動神経疾患でみられる退行性はレット症候群では見られません。

理学療法の主な目的は、変形の発生を予防または遅らせて次に起こる正常な発達を促進する事によって、レット症候群の方の生活の質を可能な限り最大限に上げる事を達成する事です。

さらなる目的:
1. 姿勢の管理は、レットの患者にとって極めて重要です。24時間を通じて、横になっている時と座っている時の姿勢を維持しない限り、重力の影響によって多くの変形が起こります。
Ø   多くの時間をベッドで過ごすため、睡眠の環境を考慮する必要があります
Ø   椅子・車いすの選択は慎重に行わなければなりません。また、子供の成長に合わせて頻繁に見直す必要があります。確実にレットの患者が正しく椅子に座らされるために、スタッフへの訓練が必要な場合もあります。位置や姿勢は、一日を通して監視する必要があるでしょう。

2. レットの患者が、自身で、もしくは補助を受けて活発な運動をする機会を提供する事を目指します。
筋肉の強度を保つためには使わなくてはならず、抵抗する力に対して筋肉を使って鍛えるという事を知っておきましょう。そして、使われない筋肉から力が失われます。

3. 弾力性と伸縮性を維持するためにすべての筋肉群を屈伸(ストレッチ)させることで、拘縮や変形を最小限にすることを目指します。

4. 関節を可能な限り広範囲にわたって受動的に動かし、動きの範囲を維持、向上させることを目指します。

5. 骨格を屈伸させることで骨密度の維持、向上を目指します。この目標を達成するためには、毎日患者が起立する(必要であれば立位補助器を使用)事が大切です。レットの患者は学習に対して素晴らしく前向きです。必要なサポートをできるだけ多く得ることで、一番良い起立の姿勢をとる事ができます。患者が重力に逆らい「筋肉の強度と使い方を得る」まで様子をみて、そして徐々にサポートを減らす事で本人の努力を促すことができます。

6. 能力の維持と向上を目指します。「使うか、失うか」のことわざの通り、例えば、患者が差し出された食べ物を指さすことができる場合、これらの能力を維持するためのあらゆる機会が患者に与えられる事が最も重要です。また、患者は適切なテーブルで適切な椅子に座り、ちょうど良い高さに置かれる必要があります。

7. メモ;レット症候群の方は、概して物よりも人や顔に興味を持ちます。外部からの刺激がないと簡単に自分の中に引きこもってしまいます。散歩に出かけ(必要であれば車いすを使用)外の空気にあたって鳥をながめる、ショッピングセンターに行く、近所のマーケットに行く、など、定期的に外に連れ出す事を目指します。これらには理学療法とは一致しない所もありますが、一部の理学療法的な目的を十分に達成させるでしょう。


レット症候群による問題に対する具体的な治療法は?

肩帯の可動:レット症候群の多くの方が牽引のための固定を着用し、肩帯のつり上げと胸筋の拘縮を抱えることになります。これらは恐らく特徴的な手の動き、呼吸の問題と重力の影響によるものです。したがって、毎日運動を行うと良いでしょう。

アキレス腱のストレッチ:レット症候群では起立や歩行を止めてしまう事が見られますが、これは両足を床に平に置く事ができなくなった事が原因です。
足首を90度の角度で維持するためにあらゆる努力をする必要があります。これには、夜間副子(訳注;副木とも呼ぶ)や、場合によってはボトックス注射も使用しますが、この問題には毎日の起立訓練が効果的です。

膝窩筋(膝の筋肉):膝窩筋の突っ張りが進行する方もいますが、その際は現在の状態を維持するために夜間副子を装着する必要があります。定期的に長さを確認するべきでしょう。

レット症候群における脊椎側弯症の発症率は高いです。受動的かつ積極的な運動によって脊椎の可動性を維持する必要があります。水治療法が効果的です(*1)。

機能:機能や能力の更なる向上をとげるためには、多くの作業を行う必要があります。

例;もし子供が補助のもとで座ることができるのであれば、一人で座ることができるように体幹の筋肉を鍛える多くの訓練を行います。一人で座ることができるようになったら、「立ち上がるために座る」訓練に移ります。多くの子供たちは、一貫して無意識に両足を置くことができます。

うつ伏せ寝:レットの方がうつ伏せに横たわる事に耐える力を鍛える、または維持するよう心がけます。毎日、うつ伏せで横になる時間を持ち、その時はベッドやテーブルの端に両足を当て、足首を直角にします。年長者では股関節屈筋の突っ張りが進み、歩行がますます困難になります。うつ伏せ寝の姿勢は股関節の前側の筋骨を伸ばし、また重力に逆らう伸筋を使う事ができる効果的な体位でもあります。


*1:水治療で使用するプールは多くの理学療法プログラムを行う優れた場所です。一人で水面に浮かぶ事ができるようになるために、使用できる多くの浮遊補助用具を使用する事をおすすめします。能力が上がるに従い、徐々に補助を減らします。レットの方にとって、一人で浮く事による心理的効果は最も良いものです。



資料ソース
RETT UK INFORMATION SHEET - PHYSIOTHERAPY - Frequently Asked Questions
Lyn Weekes FCSP Physiotherapist (retired)
The International Rett Syndrome Foundation



翻訳、編集;片目のにゃみ姉