Where hyenas are
used to treat mental illness.
By Richard Hooper,
BBC Service
16 October 2013
Last updated at 23:40 GMT
精神病者の治療とハイエナ
世界中で最も高い精神病罹患率を持つ国の一つであるソマリアでは、長年の戦争によって医療制度が崩壊し、病気に苦しむ人のほとんどが医療の助けを受けていない。多くが木や自宅などに鎖につながれ、中にはハイエナと一緒にケージの中に閉じ込められる人もいる。一方、この様な状況を変えるべく一人の男が挑戦している。
モガディッシュのラジオ局では、一日に三回ハブ医師の宣伝が流れる。
「彼の頭がおかしくなったぞ!逃げて行くぞ!」役者が叫ぶ。「彼を鎖につなげ!」
このような筋書きはソマリアでは身近なものだ。ある男性が霊に取り憑かれると、ただ彼を鎖につなぎシャイフ(訳注;部族の長老、崇拝される賢人)を呼ぶ、というのが家族に与えられる唯一の選択肢である。しかし、ソマリアの伝統を排除する試みを呼びかける声が、ある若い男の抗議から起きた。
「鎖につなぐのは止めなさい!」ナレーターの声が命令する。「彼を、ハブ医師の病院に連れて行くのだ!もし彼が精神に問題を抱えているなら、ハブ医師の所に連れて行こう。医師は彼を鎖につないだりせずに彼を助けてくれるはず。」
ところが、ハブ医師は正規の精神科医ではない。Abdirahman Ali Awaleという人物で、WHO(世界保健機関)の専門家トレーニングを三ヶ月間受けた看護師である彼は、ソマリアの精神病者の救済を使命にしたのだった。彼は総合失調症から産後うつ病を含むすべてを治療することができると主張する。
しかし、ハブ医師訪問の代わりに訪れる事のできる訪問先は、ソマリアの人気薬草家か、時に残忍で未だに伝統的な治療を擁護するシャイフでしかない。
「私の国では悪い霊が精神病を起こすと考えられており、ハイエナはその悪霊を含むすべてを見る事ができると信じられています。」ハブは言う。「ですから、モガディッシュでは林の中から連れて来られたハイエナを見かけます。家族は350ポンド(560ドル)払って、愛する病気の家族を一晩動物と一緒に部屋に閉じ込めるのです。」
その高額な治療(平均的な年間賃金を上回る)は想像される通り残忍なものだ。患者を引っ掻き噛み付く行為は、ハイエナが悪霊を追い出そうとしていると考えられている。子供を含む患者はこの過程で死亡することも知られている。
「私たちは、これが無意味であるという事を人々に知らせる努力をしている。」ハブは言う。「私たちのラジオ宣伝を人々が聞き、精神病は他の病と同じで、科学的方法による治療が必要である事を学びます。」
ハブの運動は、2005年に彼が道で青年の集団が女性患者のグループを追いかけている所を目撃した事件が発端であった。「誰も助ける人がいなかった。」彼は言う。「その後、私はソマリアで初めての精神病院を開かなくてはならないと決めました。」
モガディッシュにあるHabeb公共精神病院は、ソマリア内に六つあるハブのセンターの中で始めに建てられた。総計一万五千人の患者の治療にあたった。
最後に数えられた時、ソマリア全土では実践的な精神科医がたったの三人しかおらず、ハブには高度な資格が欠けているにも関わらず、国内で先導する精神衛生サービスの提供者になった。彼は、厚生大臣がそのように唱える書面を所持してさえいる。
ハブは、克服できないような任務に直面している。WHOの見積もりでは、ソマリア人の三人に一人が精神疾患に罹患したことがある、もしくは現在している。一方、世界の平均は十人に一人である。何十年にも及ぶ衝突によって住民が最も精神的に傷ついている一部の地域では、その比率はさらに高くなる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症例は当たり前で、その状況は、広範な薬物乱用によってさらに複雑化している。
「アラビアチャノキはとても大きな問題です。」ハブは言う。東アフリカで何世紀もの間噛まれてきた薬草の興奮剤である。副作用には、不安による精神障害や精神病が含まれる。「私たちは病院で彼らを治療し、彼らは去って行く。しかし彼らは再びアラビアチャノキを食べる。同じ患者を七回、八回と見ることもある。」
ソマリアにある欧米の援助機関は伝染病をターゲットにして活動を推進する事が多いが、結果が早く安価に得られるためであるという理由が多少ある。一方、ハブは最小限の資金と、NGOや民間の薬局から直接仕入れる向精神薬の不安定な供給によって団体を運営していると述べる。
患者に自身の状態が病気によるものだという事に気づかせるだけでも難しい。ソマリア人は心理的な問題を頭痛、発汗や胸の痛みなどの肉体的な痛みとして訴える事の方が多い。精神的病の基本的な考え方の中にはソマリア文化に存在すらしないものがある。うつ病はその一例で、「ラクダが友を亡くした時に持つ感情」と翻訳される。
しかし、患者を木や部屋に鎖でつなぐ行為が広く行われている事以上に、民間人の精神衛生に対する理解の貧しさを示すものはない。イタリアのNGOであるGRTは、生涯鎖で繋がれる患者を記録している。
「私自身も、死ぬまで放置された多くの患者を助けた」農村部を走行するミニバスを運転するハブはこう述べる。鎖を解き自身のセンターの一つに連れて行くのである。「両親、兄弟、親族、皆ただ木に鎖でつながれ、家族は去る。」
WHOは「脱・鎖」策を打ち出し、病院内の鎖の使用から取り組みをはじめ、習慣の完全な排除を目標に基金を立ち上げた。しかし、ハブでさえも最も暴力的な患者の何人かを鎖につないでいると認めている。
2007年、彼が手に入れたフルフェナジン塩酸塩という抗精神病薬が患者の食欲を増進させた事による、予期せぬ結果の一件について彼は語った。患者は食べ物をあさるためにモガディッシュにある彼の病院の壁をよじ登った。しかし状態は絶望的に悪く、脱走した者の中には軍の監視地で命令を無視したために撃たれた。彼らをベッドに鎖でつなぐ事は唯一の選択肢だった、とハブは結論づける。
「多くの患者が治療のために長い時間を要する。」ハブは言う。「精神衛生上の問題を扱う事に焦点を当てた外部の協力がなく、NGOが介入しない主な理由は費用です。」
彼の士気を煽るのは各家の中に鎖でつながれていると確信する何千人もの患者だ。彼が送信する一覧表には、新しいマットレス、患者の食糧と、彼のミニバンに使うディーゼル油が必要なものとして示されている。また、資格を持つ精神科医と看護師の不足もある。患者への支給に努力する毎日と、自身が目撃する苦痛が代償になっているのは明らかだ。
「肉体的にも精神的にも、とても大変な仕事です。」彼は言う。「はじめた当初私は健康でしたが、現在は糖尿病を患っています。とても、とても大きな問題に一人で取り組んでいるのです。私はテレビで泣き、あちこちの公共の場所でも泣きました。大統領の目の前でも泣いたのです。」彼は言う。「今でも泣いている気分です。」