2013年3月3日日曜日

悲しみや不安は精神的病ではない




‘Grief and anxiety are not mental illnesses’
By Peter Kinderman, professor of clinical psychology
18 January 2013 Last updated at 3:01GMT

次期出版される米国精神科マニュアルによって、人口の中からさらに多くの人が精神疾患を診断されると予想する。しかし、人々に必要なのは理解と救済であり、病名や治療ではない。

愛するものを亡くした多くの人が長期にわたる深い悲しみを経験する。紛争から帰還する兵士の多くはトラウマに苦しむ。私たちの多くは社交場で尻込みし不安になるし、失業中や仕事が嫌いであれば私たちの多くはやる気が失せるし悲観的になる。

私たちの少数は、虐待や失敗の経験によって生きる価値を失ったと感じる。我々はこれら人間の真理を認識する必要があり、また救済を申し出る必要がある。しかしながら、我々はこれらの人間としての経験を精神疾患の症状であると見なすべきではない。

精神科の診断は科学的に無意味なだけではなく、有害でもある。病気という言葉は一般的に“化学的不均衡”として既知されており、これら精神的苦痛の根源は私たちの脳や生態の異常性に関係することを意味する。

このことが、社会的また心理的に起こる苦痛に対して我々を盲目にさせるのである。

さらに重要な点として我々は、重い副作用や有効性の証拠が乏しいにも関わらず、抗うつ剤や向精神薬などの薬を処方する傾向にあるという事を指摘する。

これらは不適切である。我々は今よりさらに多くの人に“精神病”という無意味な診断を行い、これらは脳の異常に起因していると説明し、薬を処方する事を止めるべきである。

セックス依存症

臨床医と研究者が精神障害の診断と分類を行う際に利用し極めて影響力を持つ米国精神科マニュアルは、2013年5月の次期出版のために更新された。

しかし、この最新版“米国精神医学会の診断と統計マニュアル(DSM-5)”は悪い状況をさらに悪化させるだけだろう。なぜならば、多くの診断基準を下げ、一般人口の中で精神病を患っているように見える人々の数を増やすと予想されるからである。

DMDD – Disruptive Mood Dysregulation Disorder (訳注—子供の双極性障害の新たな診断基準)”という新たな診断は、幼少期の癇癪(かんしゃく)を精神病の症状に変えるだろう。
正常な悲しみが“MDD – Major Depressive Disorder (うつ病)”になる。つまり、死別を経験する人々への対応はMDDの診断と処方になることを意味する。
GAD – General Anxiety Disorder (全般性不安障害)”の基準は大幅に緩和され、日々の生活で感じる不安が治療の標的になる。
診断基準の低下により“AADD – Adult Attention Deficit Disorder(成人ADD、成人注意欠陥障害)”の診断が増えるだろう。これは覚せい剤を普及する処方につながる。
好ましくない人間の行動の広い範囲で、新年の抱負として多く掲げられるような事が精神病になるだろう。食べ過ぎが“BED – Binge Eating Disorder (過食症摂食障害)”になる。そして“行動的依存症“の枠組みが大幅に拡大して”インターネット依存症“や”セックス依存症“などの”依存“も含まれるだろう。

診断の汚点

一般的な精神医学的診断は無意味な事として良く知られている。明らかに重要であるべきにも関わらず、現実の世界において症状の有意義な群として調和していない。診断によって特定の治療法の効果を予測することができず、生物学的過程において正確な図解を描かない。

現在の精神衛生システムでは、診断はサービスを受けるために不可欠であるととらえられることがよくある。しかし、一方では抗精神剤や抗うつ剤などの医療介入の誤用や乱用の機会をも設け、またこれらには長期的な副作用の心配がある。

悲痛な経験は“障害のある脳”によって起こるものではないという事が科学的証拠で強く示唆されているが、生物間の複雑な相互作用から社会的また心理的な要因がもっと重要である。

診断や生物学的疾病という言葉は虐待、貧困や社会的孤立など、要因の原因となる役割を見えにくくする。そして、多くの場合、さらなる偏見、差別や社会的排除という結果になる。

治療的なアプローチ

従来の精神医学的診断が人道的かつ効果的な方法である。

確実かつ正当に定義された問題の簡潔なリストを作成するのは比較的簡単である。これらの症状群を診断可能なカテゴリーに加える、もしくは病気の根源の結果であると仮定する理由はどこにもない。

そして我々は医学的かつ精神医学的科学を用いて問題がどのように始まったのかその可能性を含めて理解し、治療的な解決法をすすめることができる。

この方法によって多くの不備や危険性が除かれ、既存の診断と治療方法のすべての恩恵が生み出されるだろう。


Peter Kinderman教授は、リバプール大学の心理、医学及び社会学の研究所所長を努める。